『まばゆくスポットライトを浴びた“鹿鳴館時代”が終焉を迎えると、『鹿鳴館』はひっそりと歴史の片隅に追いやられ、やがて昭和15年に取り壊されました。
そのとき、『鹿鳴館』の階段と手摺の一部が、東京帝国大学建築学科(現在の東京大学工学部建築学科)に運ばれ、今日まで保存されてきたのです。
東大に保存されたというのは、やはりジョサイア・コンドルの縁からでしょう。『鹿鳴館』を設計したジョサイア・コンドルは、《お雇い外国人》として来日すると工部大学校造家学科で教鞭をとりました。工部大学校はのちに東京大学と合併して帝国大学(東京帝国大学)となります。現在の東大工学部建築学科は、工部大学校造家学科が前身です。
現存すると言われれば、実物を見たくなりますよね。
さっそく、『鹿鳴館』の階段と手摺をたずねて、東大工学部建築学科へ!(のはずだったんですが ……)
つづきは下を読んでくださいな。
さて──。
現存する『鹿鳴館』の階段と手摺をぜひ間近で見たいと思った私は、どこを訪ねれば見学できるかを確認しようと、まずは、東京大学に電話をすることから始めました。
1)東京大学総合案内へダイヤル……
2)そこから工学部の事務の電話番号を教えてもらい…
3)建築学科の番号を教えてもらい…
4)また別の番号を教えてもらい…
5)最終的に、階段と手摺を保管している研究室の番号に電話し…
と、電話すること5回。
『鹿鳴館』の階段が確かに保管されている、という事実は確認できました。
しかし、最終的に、見学は断念しました。
というのも…
私は、『鹿鳴館』の階段と手摺は建築学科の校舎のどこかに展示してあって、行けばすぐに見ることができる…と、簡単に考えていましたが、そうではなかったのです。ほかのさまざまな資料とともに《倉庫》に保管してあるそうなのです。
そんなに大変なことだとは思わなかった〜〜。
手続きを踏めば倉庫の中を見せていただくことも可能なのでしょうが、これは研究者でも専門家でもない私の手の及ぶ範囲外、と潔く(?)あきらめることにしました。
電話で応対してくださった方はとても親切で、私が「実は『鹿鳴館』のことを調べていて、階段と手摺をできれば見てみたいと思いまして…」と説明すると、「見せてあげたいのだけれど…」と残念そうに事情を話してくださいました。こちらこそ、軽く考えていました。無理なお願いをしてすみませんでした〜〜
残念ながら、東大建築学科を訪ねて『鹿鳴館』の階段とご対面〜♪という夢は果たせなかったのですが、担当の方のお話しだと、「明治」とか「鹿鳴館」などをテーマにした企画展示会に貸し出しをすることも多いとのこと。
それなら、そのうちどこかで実際に間近で見る機会もあるに違いない。
たしか以前、新橋の「旧新橋停車場 鉄道歴史展示室」でも『鹿鳴館』の階段が展示されたことがあったはず。そのときは見に行くことができなかったのですが、きっとまたどこかで展示があるでしょう。
そのときまで……。
ところで、『鹿鳴館』の階段ってどんなデザインだったのかしらって気になりますよね?
実物との対面は叶わなくとも、写真でそのデザインを見ることはできます。
東京大学創立百二十周年記念東京大学展『学問のアルケオロジー』というサイトに、『鹿鳴館』の階段と手摺の写真が掲載されています。
サイトのなかの《帝国大学における「日本建築学」講義 建築アカデミズムと日本の伝統》という解説(文化庁文化財保護部 稲葉信子氏による)が掲載されたページです。その下の方に、階段と手摺の写真と解説が載っています。
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/1997Archaeology/03/31400.html
写真を見ると、手摺の細かい装飾などからも、『鹿鳴館』に注がれたエネルギーというのが伝わってくる気がします。
もしも『鹿鳴館』の建物全体がそっくり現存していたら、本当に貴重な歴史遺産だったろうなあ…と、残念でなりません。
東京大学建築学科に保存されている『鹿鳴館』の階段と手摺は、玄関ホールにあったものらしい。つまりは、舞踏会のゲストたちがしずしずとドレスの裾を持ち上げながら上って行った階段ということですよね。
三島由紀夫の作品『鹿鳴館』にも、この階段が登場します。階段を上って舞踏会場に乱入しようとする壮士たちを、ヒロイン朝子が階段の上で立ちふさがり、壮士たちを退却させる……というシーン。
お芝居の中だけでなく、実際の『鹿鳴館』でも様々なエピソードがあったことでしょう。この階段を踏みしめた人たちの喜怒哀楽を想像してみるのも楽しいですね。
『鹿鳴館』の残像は、わずかではありますが、ほかにも現代の東京に残っています。
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